WHITE DAY

「オリヴィエいいところで会った。すまぬがこの書類をマルセルに届けてくれないか」
聖殿内をうろうろしていたオリヴィエはジュリアスにつかまってしまった。
「えー。いやよめんどくさい。自分でいけばいいじゃない」
「めんどくさいではない。私はまだこれだけ書類を持っていかなければならぬのだ」
ジュリアスはそういうと束になっている書類をオリヴィエに見せた。
「わかったわよ。マルセルに渡したらいいだけなのね」
「そうだ。頼んだぞ」
ジュリアスはそういうとオリヴィエに書類を渡し、立ち去っていった。
残されたオリヴィエはどうしたものかと書類を見、ルヴァの執務室へ赴いた。
コンコン。軽くドアをノックすると中から「はいっ!」という声が聞こえた。
オリヴィエはドアをかけると「は〜い」と声をかけた。
「あなたでしたか」
少しやつれた部屋の主はオリヴィエを見るとがっくりと肩を落とした。
「あのさ、そうあからさまに残念がらないでくれる?」
「あー。そうですね、すいません」
ルヴァは口で謝りはするものの、やはり肩は落としたままだった。
「暗いわね。そんな顔を見ているとこっちまで気が滅入るじゃない。――んとに」
オリヴィエは世話がかかるといいたげにため息をつくと「はい」とジュリアスから頼まれた書類を差し出した。
「これは?」
「ジュリアスからの預かりもの。この書類をマルセルに渡してくれって頼まれたんだけどね。この仕事アンタに譲るわ」
「ええ?いいんですか?ありがとうございます」
ルヴァは急に元気になり、オリヴィエの手を握り締めた。
「ところでルヴァ」
オリヴィエは手を握られたまま話を始めた。
「今日何の日かわかってるよね?」
「ええ、前にあなたに教えていただいたようにマルセルにプレゼントを用意したのですけどね。例のごとく執務室に行っても忙しいの一点張りで撮り合ってくれないんです。このままじゃ折角のプレゼントも渡せない状態なんです」
またしても暗くなりつつあるルヴァにオリヴィエは正直うんざりしながら
「この書類を届に行くとき話をすればいいんじゃないの?」
とアドバイスした。

コンコン
ルヴァはマルセルの執務室へ行くとしばらくためらった後ドアをノックした。
「はい」
中から聞こえてくるマルセルの声を聞き、ルヴァは勇気を出し中へ入った。
執務机で書き仕事をしていたマルセルは顔を上げ訪問者がルヴァと知ると
「何の用事でしょうか」
と冷たく言い放った。
「あ、あの。ジュリアスから書類を預かってます」
ルヴァはそういうとマルセルに書類を渡した。
「それと、そのー」
そのまま言葉を続けようとしたルヴァを無視し、マルセルは視線を下におろし、仕事を再開した。
そんな態度のマルセルをみ、ルヴァはその場で立ちつくした。
どれぐらいそのままでいたのか。先に沈黙を破ったのはマルセルだった。
はー。マルセルは一つため息をつくと視線をあげ、ルヴァの目をみ、
「他になにかあるのですか?ないのでしたら僕仕事をしたいので出て行ってもらえませんか」
あからさまに邪魔扱いされ、ルヴァは
「失礼しました」
といい部屋を出て行った。
手元にはマルセルにと思って用意していたプレゼントが残ったままだった。
ルヴァは仕方なくマルセルの執務室のドアのノブに袋に入れたプレゼントを引っかけ自分の執務室へ戻って行った。
ルヴァの足音が遠くなるのを聞き、マルセルはそっとドアを開けた。
そんなマルセルの視界にドアのノブにぶら下がっている袋が入ってきた。
マルセルは部屋に持ってはいると袋の中を見た。そこにはかわいくラッピングされたクッキーが入っていた。
クッキーの形はとてもいびつであきらかに手作りだとわかった。
クッキーを袋から取り出すとひらりと一枚のカードが床に落ちた。
”マルセルへ”とかかれたそのカードには”マルセル。ごめんなさい”という書き出しで、ただ誤解を解きたいという文がかかれていた。
そして最後に”愛しいマルセルへルヴァより”と締めくくられていた。
マルセルはカードとクッキーを袋に戻すと、仕事そっちのけでルヴァの執務室へ向かった。
ところが執務室に戻っていないのかルヴァはいなかった。
マルセルはルヴァを求めて聖殿内そして聖殿の外へと出て、地の館、公園と探した。しかしどこにもルヴァの姿は見えなかった。
「あとはここだけ。ここにいなかったらどうしよう」
マルセルはそう言いながら湖に足を踏み入れた。そこにはルヴァの姿はなく、ただ、静寂の中水の流れる音だけがしていた。
マルセルは湖に近づくと胸の前で手を組み、ルヴァのことを考えた。
ザザ。茂みの奥で音がした。マルセルははっと顔をあげ、音のした方を見るとやつれたルヴァの姿が瞳に映った。
マルセルは立ち上がるとルヴァの方に駆けていき、しがみついた。
ルヴァは一瞬何が起こったのかわからずその場で立ちつくした。
マルセルが自分にしがみついているのだと認識したルヴァはそっとマルセルの背中に腕を回した。
マルセルはびっくりした顔でルヴァを見上げ、背伸びすると軽く口づけした。
「マ、マルセル」
「ルヴァ様。ごめんなさい。僕意地を張っていました。どうしても僕だけのルヴァ様でいてほしかったんです。ごめんなさい」
そう言うマルセルに
「私の方こそすいませんでした。あなたに対する好きと、ゼフェルに対する好きは全然違うものなのですが、うまく言葉にできないんです。でも信じてください。本当にあなたのことが好きなんです」
ルヴァはそう言うとゆっくりとターバンを外した。
「ルヴァ様…。僕はルヴァ様の特別だって思ってもいいんですか?」
ターバンを外し終えたルヴァがコクリと頷くのを見て、マルセルは再度唇をあわせた。



END




           遅れに遅れ、ひっぱるだけひっぱり。こんなおちかい!
              と自分でつっこんでしまいます
              少しでもお楽しみ頂けたのならうれしい限りです。




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