CHRISTMAS


「あの。ルヴァ様。ちょっと書庫を見せていただいてよろしいですか?」
リュミエールは執務をしているルヴァに申し訳なさそうに声をかけた。
「あっ。すいませんリュミエール。いつの間に」
「ノックをしたのですが、お返事がなかったので、勝手に入らせていただきました」
「いえ。こちらこそ全然気づかなくてすいません。書庫ですね。どうぞご覧ください」
ルヴァはそう言うと書庫への扉の鍵を開けた。

書庫に入ったリュミエールはジュリアスから言われている調べ物をするために色々な本を手に取って探していた。
調べ物が終り、書架の間を歩いていると、普段あまり見ることのないジャンルの本棚のところで、気になって足を止めた。
手を伸ばした先にあった本はどうやら何かの楽譜のようだった。
リュミエールは譜面を目で追っていくと、頭の中でハープの音を想像していった。
するとすごくきれいな曲で、ハープの音にもしっくりくることが分かった。
「ルヴァ様。本を一冊お借りしていってもよろしいでしょうか?」
「ええ。気になる本があれば何冊でも、持っていってください」
リュミエールは、実際奏でてみたくなり、ルヴァから譜面を借りることにした。

ある晴れた日。リュミエールは仕事も落ち着いているしと思い、執務室でハープを奏でることにした。
「リュミエール様」
ハープを奏でていると開いている窓の外から誰かの呼ぶ声がする。
リュミエールはハープを置くと窓から下を覗いた。そこにはアンジェリークが立っていた。
「リュミエール様。ハープの演奏、近くで聴いても良いですか?」
アンジェリークは、窓から顔を出したリュミエールを確認すると、声をあげた。
「ええ。どうぞ」
リュミエールがそう応えると、アンジェリークはうれしそうな顔をし、聖殿の入口に向かって走って行く、するとすぐに、リュミエールの執務室のドアがノックされた。
「はい。どうぞ」
リュミエールがそう応えるとドアが開き、アンジェリークが入ってきた。
「さっき弾かれていたのって讃美歌の《きよしこの夜》ですよね?」
「実はなんの曲かは知らないのですよ。たまたまルヴァ様の書庫で譜面を見つけて、きれいな曲だと思って奏でているのです。《きよしこの夜》って曲なのですね」
「はい。私のいた国ではクリスマスが近づくと町のあちらこちらで聞こえてくる曲です」
「クリスマス?」
「あっ。えっとちゃんとしたことは良くわからないんですけど、神さまが生まれた日で、みんなで祝福をするんです。私は友達同士でワイワイすることが多かったですけど。中には好きな人と一緒にご飯を食べたり、イルミネーションを見たりして過ごしている人もいました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
リュミエールは教えてもらったことにお礼を言い、ハープを手に演奏を始めた。
何度目かの演奏が終わったとき、
「ありがとうございました。すごく素敵な演奏でした」
と言い、アンジェリークは席を立った。
「そう言ってもらえるとうれしいです。よければまたいらしてください」
「はい」
アンジェリークはそう言うとリュミエールの執務室を後にした。
『好きな人と過ごすクリスマス』アンジェリークが帰った後もその言葉がずっとリュミエールの脳裏に残っていた。

次の日。早速リュミエールはルヴァの執務室へ行き、24日の夜が空いていないか訪ねることにした。
今年はちょうど土の曜日。執務自体はお休みの日。
ルヴァは特に予定がなかったらしく、リュミエールの誘いに応じることになった。

24日
ルヴァはリュミエールの私邸へと足を運んだ。リュミエールからの誘いにOKをした後、ルヴァの元へ改めて招待状が届いた。そこには『17時に私邸に来てください』と書かれていた。
リュミエールの私邸で通された部屋は色々と飾り付けされ、部屋の片隅にはハープと謎な樹が置いてあった。
「あ、あの。リュミエール」
どう反応していいのか分からず立ち尽くすルヴァに
「ルヴァ様とりあえずあちらの席へお座りください」
と暖炉のそばにある椅子をすすめた。
ルヴァが椅子に座ったのを見るとリュミエールはハープを手に取り「しばらく私の演奏を聴いてください」と断りをいれ、ハープを奏でだした。ルヴァにとって初めて聞く楽曲。でもすごく心に響く曲だった。暖炉の横で程よい暖かさ。そこに心地の良いハープの音。いつしかルヴァはウトウトと眠りだしていた。
「あっ。すいません」
どのくらい眠っていたのかルヴァは目を覚ますと
「あまりにも心地よくて眠ってしまっていました」
と謝った。
「いえ。気にしないでください。ルヴァ様の心の安らぎになっていたならうれしいです」
リュミエールはそう言うと「そろそろ食事にしましょうか」と言い、ハープを部屋の隅に置くと、一度部屋を後にした。しばらくすると食事の乗ったカートを引いてリュミエールが戻ってきた。
「ルヴァ様。すいません。そちらのスイッチを入れていただけませんか?」
ルヴァがリュミエールの指す先を見ると、小さなスイッチがあった。ルヴァがそのスイッチを入れると部屋の隅にある謎な樹にカラフルな電気が点いた。樹を見つめるルヴァを食事のテーブルに促すとワイングラスにワインをそそぎ、
「ルヴァ様食べましょう」と言い、食事を始めた。
食事が終わりデザートの準備を始めるころ
「あの。リュミエール」
とようやくルヴァが口にした。
「はい。何でしょう?」
「全く状況がわかってないのですが、今日は一体…」
「今日はアンジェリークの世界ではクリスマスイブという日なんです」
「クリスマスイブ?」
「はい。明日がクリスマスで神さまが誕生した日でみんなが祝福するようですよ」
リュミエールはルヴァと自分の前にカットしたケーキを置いた。ルヴァはあいかわらずわからないという顔をし、リュミエールを見ていると、
「あの。ですね」と急に背筋を伸ばした。
「はい」
ルヴァがそう応えると
「アンジェリークが言うには今日は友達とワイワイとご飯を食べたりするらしいのです。ただ、中にはですね。えっと。その…」
急に歯切れの悪くなるリュミエールを見、ルヴァが首を傾げると、リュミエールは自分のケーキを一口口に含み飲み込んだかと思うと
「好きな人と一緒に過ごしたりするらしいんです」
と言い切った。
「それって、あの。もしかして…」
「あ。気にしないでください」
ルヴァが何かを言いかけたものの、リュミエールは途中でルヴァの言葉を切り、
「さ、デザートも食べてください」
とすすめた。
ルヴァとリュミエールはしばらくもくもくとデザートを食べ、そのまま沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのはルヴァだった。
「あの。リュミエール。今日はありがとうございました」
そう言い、席を立つとハープの所へ行き、「素敵なハープの演奏」謎な樹の所に行き「この部屋の飾り付け」そしてリュミエールの元へ行き、「私のために色々としてくれたリュミエール。私はそんな貴方が大好きですよ」
と言った。リュミエールは立ち上がると信じられないという目でルヴァを見た。
そんなリュミエールの目をしっかりと見つめ返し、ルヴァはそっとリュミエールの唇に口づけをした。


FIN



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