CHRISTMAS


「ルヴァ、邪魔するぞ」
「おや、カティス。こんな時間に貴方が訪れてくるなんて珍しいですね」
「おい、それはどういう意味だルヴァ。俺がこんな時間に聖殿にいるのはおかしいか?」
 ルヴァの執務室に入り、執務机で仕事をしているルヴァの元につかつかと歩きながらカティスは口を開いた。
「いえ、そういう意味ではないのですが、この時間はジュリアスたちと乗馬していることが多いじゃないですか」
「ま、確かにそうだな。ってそんな話をしに来た訳じゃないんだ」
 カティスはそういうとどこからともなく一通の封筒を取りだし、ルヴァに渡した。
「これは―?」
「何ですか?なんて聞いてくれるなよ」
 カティスはルヴァの言葉を奪うと
「ま、あとでゆっくり見てくれ」
 と言い、ルヴァの執務室を後にした。
 ルヴァは何のことだろう?と思いながら封筒を開けた。
 中から出て来た便せんには一言『24日の夜、俺の家で待つ。 カティス』
とだけ書かれていた。
「一体なんなのでしょう。ま、カティスらしいと言えばカティスらしいですけど……」
 ルヴァはそうつぶやくと執務の続きを始めた。


24日
 結局忙しい毎日が続き、今日が何の日なのかわからないまま一日が過ぎていった。
 ルヴァだけでなくみんながみんな忙しかったのか、ルヴァの執務室を訪れる人もいなかった。
(どなたか来たら今日が何の日なのか聞こうと思っていたのですが……)
ルヴァはそんなことを考えながらなんとか執務をこなし、カティスの私邸へ向かった。

カティスの私邸に着いたルヴァは呼び鈴を鳴らした。
しばらく待つとドアが開いた。開いたドアからはいつもなら出てくるはずの執事が出てこず、カティスが現れた。
「待ちくたびれたぞ、いつまでたっても来ないから忘れているのかと思った」
 ルヴァを家の中に招き入れるとカティスはそう言いながらそのまま応接室に案内した。
「今日は執事の方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、今日は一日暇を出した」
 そう言い、ルヴァを案内した応接室のテーブルの上にはすでにディナーの用意がされていた。
「今、一日暇を出した。とおっしゃいましたよね?」
 テーブルの上に並ぶ数々の料理を見てルヴァはカティスに確認した。
「ああ、今日ルヴァのために用意した料理はすべて俺の手作りだ。
こう見えても料理は得意だからな。味は保証する」
 カティスはそう言うとテーブルを見つめたまま立ち止まっているルヴァに
「ほら、突っ立ってないで席に着いた」
 と席を勧めた。
 席に座ったルヴァを確認するとカティスはワインを手にルヴァの傍らに立ち、
「少しくらいなら大丈夫だろ?」
 とワイングラスにワインを注いだ。ワイングラスからほんのり甘い香りが漂って来た。
「このワインはフルーティーだからな。きっとルヴァの口にも合うと思うぞ」
 カティスそう言うと自分のグラスにもワインを注ぎ、
「ほら。ルヴァ」
 とワイングラスを手に乾杯を促した。
 ルヴァもようやく状況が飲み込めて来たのか、ワイングラスを手にし、どちらからともなく「乾杯」と言った。
「暖かいものを順番に出せれば良かったのだが、どうしても俺一人でやりたかったから、そうもいかなかったんだ。
でも冷めても旨い物を用意したから、遠慮せずに食べてくれ」
 カティスはそう言うとルヴァが料理に口を付けるのを待った。
 ルヴァはじっと見られているのが恥ずかしいのか、下を向き遠慮がちに料理を口に運んだ。
「おいしい」
 自然と出て来た言葉を聞き、カティスは満足そうにうなずくと、自らも料理を口にしていった。
 料理がとてもおいしく、またワインにとても合ったのか、ルヴァはワインもたくさん飲んでいた。
 ほんのり顔を赤らめたルヴァをカティスは気づかれないように愛おしそうに見つめていた。
 気づけばテーブルの上にたくさん並んでいたお皿はほとんど空になっていた。
「ちょっと待っててくれ」
 カティスはそう言うと席を離れ、しばらくするとデザートを手に戻って来た。
「締めのデザートだ」
 カティスはそう言うとルヴァの前にお皿を置いた。
 そこには丸太型のケーキが乗っていた。
「変わったケーキですね」
 ルヴァがそう言うと、
「これはクリスマスに食べるブッシュドノエルというものだ」
「クリスマス?」
「ああ。クリスマス…。もしかして今日が何の日かわからずに来たのか?」
 びっくりしながらおそるおそる訪ねるルヴァに
「ええ。ここずっと忙しくて今日が何の日なのか調べる時間がなかったのですよ」
 そう答えるルヴァにカティスは「マジかよ」とつぶやくと
「じゃ、もしかしてなんで俺が今日ルヴァをもてなしたかったかもわからないわけだ」
「…ええ」
 がっかりしているカティスを見、申し訳なさそうにルヴァは答えた。
「ま、ちゃんと聞かなかった俺も悪かったか」
 カティスはそう言うと、
「今日はクリスマスと言って。まあ、正確にはクリスマスイブなんだが、下界では恋人同士が一緒にご飯を食べ同じ時間を過ごすらしい。一言で言えば恋人たちのための日だな」
 カティスはそこで一度ワインを口にし
「だから、俺はルヴァをもてなしてルヴァと過ごしたかったんだ」
 と言った。
 一瞬何を言われているのかわからなかったルヴァも、意味が分かったのか、下を向き、ワインですでに赤くなっていた頬が一段と赤くなっていった。
「あの、えっと。その…」
 何かを言おうとしつつもどうしていいかわからないルヴァを見、カティスは
「別に答えがほしいわけじゃないんだ。ただ、俺もここに長く居すぎたから、ちゃんと気持ちだけは伝えておこうと思って。な」
「そんなこと言わないでください。貴方のサクリアはいつまでも輝きを持っています。だからそんな…」
 ルヴァはそこまで言うと首を振り、
「いえ、そんなことが言いたい訳じゃないんです」
 と言い、顔を上げ、カティスの方をちゃんと向くと。
「あの。ありがとうございます。私は役目が終わり下界に戻るまで、この気持ちは誰にも気づかれないようにしなければならないと思っていました。
貴方も私のことを思っていてくれたということが、とてもうれしいです。そして未だに信じられない気持ちもあります。
―――私は貴方のことが好きです」
 と伝えた。それを聞いたカティスは信じられないという顔をし、席を立つと椅子に座るルヴァの傍らに膝をつき、その手の甲にそっと口づけをした。

Fin


今年最後の締めくくりはカティス様です。
イベントで見た池田さんが衝撃過ぎて、これはカティス様で書かないとと思いました。
あくまでも私のイメージのカティス様ですので、いろいろ思うところはあるとは思いますが、
少しでも楽しんでもらえたらうれしいです。


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