christmas

「ジュリアス、失礼しますね〜」
ルヴァはジュリアスの執務室の扉を開きながら言葉を続けた。
「先日の書類についてわからないところがありまして…」
ジュリアスの隣まで進むと机の上に書類を広げると
「ここなんですけどね…」
とジュリアスに訊ねた。
「そこは…」
ジュリアスは説明をしかけてふとルヴァを見た。
ジュリアスの視線が書類を見るために下を向いているルヴァのうなじで止まる。
「ジュリアス、ジュリアス。聞いていますか?」
ルヴァの問いかけに「はっ」とすると
「す、すまぬ…。そこは後でこちらで処理をする」
「で、でも…」
仕事をたくさん抱えているジュリアスに比べまだ余裕のあるルヴァは口ごもった。
「いや。そこまでやってもらっただけで十分だ。ありがとう」
「そうですか?貴方ががそう言うなら…。でも無理をしないでくださいねぇ〜」
そう言ってルヴァはジュリアスの執務室を後にした。
ルヴァの出て行った執務室でジュリアスは自分の鼓動が乱れていることに驚きを感じた。


『今月24日と25日はお休みとします。下界に降りても良いですよ』
女王陛下から聖地に突然言い渡された休日宣言。
ジュリアスはその日がなんなのかわからず、どうしようか悩んでいた。
「オスカー。そなた24日はどうするのだ?」
執務室を訪れたオスカーにジュリアスは訊ねた。
「24日ですか。その日は下界ではクリスマスイブですので、下界でかわいい…」
「ちょっと待て」
ジュリアスはオスカーのセリフを止めると
「そのクリスマスというのはなんだ?」
と聞いた。
「下界の風習なのですが、好きな人とおしゃれなお店でご飯を食べて、
プレゼント交換して…まぁ有り体に言えばデートの豪華版って感じです」
「そうなのか…。もしかして女王陛下はそれを知って?」
「それはわかりかねますが、俺としては大歓迎です。ではそろそろ戻ります」

好きな人と過ごす、か…。
自然とジュリアスの口から言葉が零れ落ちた。


「ルヴァ、良いところであった」
ジュリアスは聖殿の廊下でバッタリと会ったルヴァを呼び止めた。
「どうかしたのですか?」
「その、陛下が休みにした24日と25日だが、どのように過ごす予定なのかと思って」
「あー、あの日ですか。特に何も考えていなくて…。1日、本でも読んでいようかと。
ジュリアスは何かすることがあるのですか?」
「することと言うか…、もしそなたが良ければ、一緒に食事でもどうかと」
「えぇ、もちろん良いですよ」
ルヴァの良い返事が聞けてジュリアスはホッと胸を撫で下ろすと
「では24日6時頃に私邸に迎えに行こう。足を止めさせて悪かった」
「い〜え。ではジュリアスまた」
ルヴァはそう言うと止めていた足を動かし始めた。

23日
「な〜にルヴァ。なんだかうれしそうじゃない」
ルヴァの執務室でお茶を飲んでいたオリヴィエはルヴァの顔を見て言った。
「おやオリヴィエわかりますか〜」
「そりゃそれだけニコニコしてたらね〜、で、何があったの?」
オリヴィエは興味津々に聞く。
「いいことがあったんじゃなくて、これからあるのですよ」
「これから?」
「えぇ。明日ジュリアスと夕飯を食べに行くんです」
「へー、ジュリアスとね。ルヴァが誘ったの?」
机に乗り出しオリヴィエが聞くと、ルヴァは顔の前で両手を振り
「い〜え。そんな私が誘えるはずもなく…。ジュリアスに誘っていただいたのです」
「ふ〜ん。で明日って何の日か知ってる?」
「いえ。なんか特別な日なんですか?」
首を傾げながら聞くルヴァに
「う〜んやっぱり知らなかったね。明日はねクリスマスイブ。
そんな日に食事に誘われるなんて、ルヴァもすみにおけないね〜」
「オリヴィエ。そのくりすますいぶってのは何ですか?」
「下界の風習で好きな人と一緒に食事してプレゼント交換してってするんだよ」
「す、好きな人?」
顔を赤らめるルヴァは
「ジュリアスに限ってそ、そんなことはないかと思いますよ」
と言った。
「でもあんたは好きなんでしょ」
ルヴァはそう言うオリヴィエを上目遣いで見上げるとコクリとうなづいた。
「ならジュリアスはどうであれ、あんたは何かプレゼント買って行きなよ」
とアドバイスした。


24日
「ルヴァ待たせたか?」
6時を少し過ぎた頃ジュリアスはルヴァの私邸に着いた。
「いいえ、そんなことないですよ」
ジュリアスはルヴァが出かける準備が整っているのを確かめると
「では行こうか、せっかくの陛下のご厚意だし下界に降りようと思うのだが…」
と提案した。
「お任せしますよ〜」
ルヴァがそう答えると、
「そうかでは行こう」
とジュリアスが言い、二人は並んで星の小道へと向かった。

下界に降りた二人が目にしたのはたくさんの電飾に包まれた街だった。
「すごくにぎやかですね〜」
「そうだな。オスカーに聞いてはいたがここまですごいとは思わなかったな。」
「なんだか音楽も聞こえてきますね」
ジュリアスはうれしそうなルヴァの顔を見てホッとした。

「ルヴァ、少し早いかもしれないが店に向かおうか」
「そうですね。では行きましょう」
暫く街を歩いた二人はジュリアスがルヴァをリードするように少し前を歩き、店に向かった。
二人が行き着いた店は、ライトをおとした店内にローソクの柔らかい光が点った落ち着いた雰囲気の小さなお店だった。
ジュリアスは店内に入ると名前を告げた。
案内された席は店の奥まったところにある個室だった。
二人が向かい合わせに席に座るとすぐにグラスワインが運ばれてきた。
「お酒ですか」
アルコールに弱いルヴァが言うと
「これ一杯くらいなら大丈夫だろう」
とジュリアスは勧めた。
「「メリークリスマス」」
コツン
二人でワインを乾杯し、
それぞれワインに口をつけた。
テンポよくクリスマスディナーが運ばれてくる。
オードブルに始まり最後のデザートまで文句のつけようがなかった。
食後のコーヒーを飲みながら二人はゆったりとした時間を味わった。
二人の周りだけ時間が止まったかのように暫く無言だった。

「美味しかったですね〜」
先に口を開いたのはルヴァだった
「あぁ。久しぶりに美味しいと思える料理を口にした」
とジュリアスはそう答えると、
「ルヴァ」
と呼びかけると
「実はそなたに渡したいものがある」
といい包みを手渡した。
「こちらの言葉をかりるならクリスマスプレゼントだ」
ルヴァは
「ありがとうございます」
と受け取ると
「開けますね」
と言って丁寧に包みを開いていった。
中から出てきたのは革製のブックカバーと栞だった。
「前にいいのがほしいと言っていた気がしたから、これにしてみた。
その、そなたの趣味に合うかどうかはわからないが…」
「ジュアスリありがとうございます。すごく素敵です。大切に使わせていただきますね」
ルヴァはそういうと
「そのー。実は私からもプレゼントがあるんです。
こんな素敵なものをもらっておいて釣り合いがとれないですが…」
そう言ってルヴァはジュリに貰った包みよりも小振りな包みを手渡した。
「わ、私にか?」
「えぇ、今日誘ってもらって何の日がオリヴィエに聞いたところクリスマスを教えてもらったんです。
それでプレゼントも用意してみました」
「開けてもいいだろうか」
ジュリアスが聞くと
「えぇ、ホントつまらないものですよ」
とルヴァは答えた。
ジュリアスが包みを開けると中から木製の万年筆が出てきた。
「貴方がお茶の合間に木製は温かみがあって好きだって言っていたので」
「覚えていてくれたのか」
「えぇ。最近はお茶にも来てくれないので寂しいのですよ」
ふとルヴァの口から出たセリフはジュリアスの耳には届かなかった。
「ルヴァ。先ほどオリヴィエからクリスマスの事を聞いたと言ったな」
「え、えぇ」
「じゃぁ、えっと、その…」
言葉を捜すジュリアスに
「クリスマスを一緒に過ごすと言う意味も聞きました」
とジュリアスが聞きたい事を察し、ルヴァは答えた。
「と言う事は、つまり…」
ルヴァは
「はい。私は貴方のことが好きですよ」
と言った。
ジュリアスはルヴァの手を取ると手にくちづけをし、
「私はそなたのことを愛しく思う。今日はありがとう」
と言った。
ルヴァは
「私のほうこそ本当にありがとうございます」
とジュリアスに微笑みかけた。


FIN



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   久しぶりにアンジェの小説を書きました。
   かなり偽者のジュリアス様とルヴァ様です。
   
   打ち間違い等ありましたらBBSかweb拍手でご連絡ください。
   もちろん感想等いただけるとホントにうれしいです。