St. Valentine's Day
「オスカー様、おはようございます。今日もご一緒してもよろしいでしょうか」
私邸の庭で剣の稽古をしていたオスカーにランディは塀の外から声をかけた。
「おー。ランディかもちろんいいぞ。門は開いているので入って来い」
オスカーは額の汗を拭き、ランディがやってくるのを待った。
ランディは始めから稽古をするつもりだったのか、動きやすい格好で腰に剣を携えていた。
「さぁ、遠慮はいらん。どんどん向かって来い」
オスカーはそう言うと剣を防御の形にかまえた。
「はい。ではお願いします」
ランディはそう言うと何度も何度もオスカーに向かって行った。オスカーはランディの剣を受けながらいつもの太刀と違うことを感じた。
ランディの打ち込みがひと段落した時、オスカーはおもむろに口を開いた。
「なぁ、ランディ。何か悩み事でもあるのか?」
「え?」
ランディは一瞬目を見開き、
「いえ。何もないですが」
と答えた。
「うそをつくな。お前に何か悩みと言うか迷いがあると言うことは剣の太刀筋を見ていればわかる。俺じゃお前の相談役には役不足か?」
「いえ、決してそんなことは……」
「じゃぁ話してみたらどうだ?話すだけでも気は晴れるかもしれないぞ」
「で、でも……。オスカー様笑いませんか?」
「あぁ、約束する。そうと決まれば早速話を聞こう」
オスカーはランディを家にあげ、よく冷えた水を出した。
ランディは水を半分くらい飲むと一呼吸おき、口を開いた。
「実は俺。ある人のことが好きなんです。でもその人は好きになってはいけない人で……」
「女王候補でも好きになったか?」
そう言うオスカーにランディは首を横に振った。
「悪い。調子になっていらんことを言ってしまった」
「いえ。彼女たちを好きになれたらどれだけましだったか……」
「で、誰のことが好きなんだ?恋の相談ならオレの得意とするところだ」
「はい。実は俺が好きになったのはルヴァ様なんです。俺どうしたらいいんでしょう」
ランディは顔を真っ赤にしながらそう言った。
「ルヴァか。守護聖の中でもルヴァは一番そう言うことに疎そうだからな」
何かいい案はないかと目で訴えるランディにオスカーは下界の風習を思い出した。
「そうだランディ。この間下界に視察に行ったんだけどなそこで面白い話を聞いたぞ。
バレンタインといって何でも2月14日に好きな人にチョコレートをあげるらしい。
ルヴァがそのことを知っているかどうかはわからないが、試してみる価値はあると思うが」
「俺やります。2月14日って明日だし、そのチョコレートと言うのを買ってきてルヴァ様にあげることにします。
ありがとうございました」
オスカーの話を聞き、ランディはそう言うと早速チョコレートを調達するため、こっそり下界へと降りた。
下界でチョコレートを調達し、聖地へ戻ったランディは見つからないように、こっそり私邸に戻ろうとしたところ
「ランディ」
と後ろから声をかけられた。ランディはびっくりし、恐る恐る後ろを振り返ると、
一番見つかりたくなかった相手、ジュリアスが立っていた。
「ジ、ジュリアス様」
「ランディ。そなたどこへ行っていた。今日は下界へ降りる申請は誰もしていなかったと思うのだが」
ジュリアスにそう聞かれるも、チョコレートを買いに行ってましたと答えるわけにもいかず、
ランディはだんまりを決め込んだ。
いくら問いただしても何も答えないランディに、ジュリアスは5日間、私邸で謹慎するように言った。
「わかりました」
ランディはそう答えるとジュリアスに頭を下げ、その場から立ち去った。
ランディは私邸に戻る前にオスカーの執務室を訪れた。
「オスカー様、失礼します」
「やーランディ。ルヴァへのプレゼンとは無事買えたか?」
「はい。買えるには買えたのですが、下界から帰ってきたところをジュリアス様に見つかってしまい……」
下を向くランディに
「よりによってジュリアス様に見つかったか。で、怒られた――と」
「いえ。怒られたというかなんというか、今日から5日間私邸で謹慎するように言われました」
「謹慎って、あの私邸から出ず、誰とも会うなってやつか?」
「はい。で、申し訳ないのですが、明日、ルヴァ様にこれを渡しておいて貰えませんか?」
ランディはそう言うとマントの下から四角い箱を取り出すとオスカーに手渡した。
「そう言うことなら仕方ないな。俺がきちんと渡しておいてやるさ」
オスカーはそう言い、ランディの手から箱を受け取った。
「では。すいませんが、よろしくおねがいします」
ランディは深々と頭を下げるとオスカーの執務室を出、自分の私邸へと向かった。
14日−バレンタインデー当日−
オスカーはルヴァの執務室を訪れた。
「ルヴァ失礼するぞ」
「あーオスカーおはようございます。こんな早くからどうかしましたか?」
「今日はルヴァ宛に預かり物があってな」
オスカーはそう言うとランディからの預かり物の箱をルヴァに渡した。
「これは?」
「今日が何の日かは……。知らなさそうだな」
首を傾げるルヴァにそう言うと、ルヴァは一つうなずき
「ええ。私には今日が何の日なのかはさっぱり」
と答えた。
「とりあえずこれはランディからの預かり物だ。今日ルヴァに届けないと意味がないのだが、
どうしてもランディ自身が来ることが出来なかったので、代わりに持ってきた」
オスカーはそこで言葉を切ると
「下界の風習に習って、今日ランディからルヴァへの贈り物だ。意味は自分で調べないと意味がないと俺は思うから
あえて言わずにおくことにする。まぁ頑張って調べてくれ」
オスカーはもう用はないとばかりにルヴァの執務室から出て行った。
残されたルヴァは、きれいにラッピングされている箱を開けた。中からは湯飲みとチョコレートのセット。
ルヴァはその日から暇な時間を見つけてはプレゼントの意味を調べた。
オスカー言っていた下界の風習というのをヒントに図書館で調べたら次の日に意味がわかった。
ルヴァはランディに想われていたと言う事がうれしくて図書館からすぐにランディの執務室へ向かった。
しかしランディは謹慎中の為、執務室の扉は閉じられたままだった。
ルヴァは次にランディの私邸へと足を運んだ。しかし、呼び鈴を鳴らしても人が出てくる気配はない。
「またあとで来てみましょうか」
ルヴァはそう言うと執務室へ戻った。その日の執務中。ルヴァはディアから呼び出しがあり、惑星の調査へ行く事になった。
結局ルヴァがランディにお礼を言うことのないまま、ランディの謹慎は解かれ、ルヴァは一ヶ月間の惑星調査へ出かけてしまった……。
to be continued……
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