Christmas


「アンタってさぁ。最近おとなしくなったみたいだけど、もしかして本命でも出来た?」
 公園を散歩している時に後ろからそう言って声を掛けられたオスカーは足を止め振り返った。
「おとなしいってどういうことだ。オリヴィエ」
「そのままの意味よ。こうやって公園を歩いていても女の子に声一つ掛けないなんて今までのアンタでは考えられないでしょ?」
 オスカーは一瞬目を細めると
「だからって、どうして本命が出来たとなるんだ」
「そうとしか考えられない」
 オリヴィエはきっぱり断言すると
「アンタの本命って--ルヴァでしょ」
 迷いもなくオスカーの思い人の名を口にするオリヴィエにオスカーは金魚のように口をパクパクさせるだけ。
 その姿を面白そうに見ていたオリヴィエは
「一つだけ言っとくけど。ルヴァは鈍感なんだからね。アンタの気持ちには気づいていないわよ」
 と言った。
「いや、だから、俺は別に・・・」
 あくまでも自分の気持ちを隠そうとするオスカーに
「あのね――。言っちゃ何だけど、あれだけルヴァに付き纏ってかいがいしく世話を焼いていたらさ、気がつくって。多分気がついていないのはルヴァだけ。他の守護聖は皆気がついていると思うわよ」
 オリヴィエはそれだけ言うと「じゃ」と言い公園を後にした。

 誰にもばれていないと思っていた恋心が相手以外のほとんどが知っていると知り少しショックを受けたものの、皆が知っていると言うことは少々行動を起こしても大丈夫だろうと勝手に解釈したオスカーは金の曜日にルヴァの執務室を訪れた。
「ルヴァ失礼する」
 オスカーはノックが先かドアを開けたのが先か微妙なタイミングでルヴァの執務室のドアを開けた。
「いらっしゃいオスカー。ちょうどいい所に来ました。今からお茶にしようと思っていたところなんです。一緒に如何ですか?」
 そう尋ねるルヴァにオスカーは「ああ、いただく」と一言言うと、勝手に応接セットのソファーに座った。
 暫くするとお盆にコーヒーカップを二つ乗せルヴァは現れた。
「今日はコーヒーを飲みたい気分だったのでオスカーが来てくれて助かりました」
 そう言いながらテーブルの上にカプチーノを二つ置く。
「何でちょうど良かったんだ?」
 そう尋ねるオスカーに
「コーヒーをどうやって飲もうか悩んでいたんです。それに一人分だけ落とすのは何か豆がもったいない気がしましてね」
 そう言い、カップに口をつけると
「カプチーノはオスカーの好物でしたよね?さめないうちにどうぞ」
 と薦める。オスカーもカップに顔を近づけ香りを楽しむとカプチーノを一口口に含んだ。
「おっ。上手いじゃないか」
「本当ですか?シナモンの量がいまいちわからなくて・・・。カプチーノ好きの貴方にそう言ってもらえるとうれしいです。ところで何か用事があってきたんですよね?」
 と聞いた。それを聞き、当初の用事を思い出したオスカーは
「今晩空いていないか?」
 と尋ねた。ルヴァは暫く考え
「仕事もあらかた終わっていますし、大丈夫です」
 と答えた。それを聞いたオスカーはホッとすると
「実は付き合ってほしい所があって。6時ごろにでも私邸に迎えに行く」
 オスカーはそう言うとカプチーノを飲み干し、「ご馳走様」と言うとルヴァの執務室を後にした。

 6時ごろ。オスカーはルヴァを私邸に迎えに行くと、その足で下界に降りた。
 下界に着くとそこは赤や緑の電飾のついたツリーや飾りがあちらこちらで目に付いた。
「あの、オスカー。今日は何があるのですか?」
 ルヴァはたまならくなり聞くと、
「ちょっとしたお祭りだな。後で教えるのでとりあえずついて来てくれ」
 そう言い、オスカーがルヴァをビルの最上階にある一軒の店に連れて行った。その店は照明をかなり落とし、店全体が薄暗い。そして各テーブルの上には一輪の花とキャンドル。
 やって来たウエイターにオスカーは何かを言うと二人は窓際のテーブルに案内された。
「きれいですね。道を歩いていてもきれいでしたが、上から見下ろすと天地がひっくり返り星を見ているようです」
 窓から下を見下ろしたルヴァは感想を述べた。暫くするとウエイターがワインを持ってきた。
 ウエイターがワイングラスにワインを注ぐ。そして「ごゆっくり」と言い、立ち去った。
 オスカーはグラスを持つとルヴァにも持つように促し「メリークリスマス」と言った。
 ルヴァは何のことだかわからないまま。とりあえず乾杯。
 ワインを一口飲み、テーブルにグラスを置くと見ていたかのように料理が運ばれてきた。
 前菜から始まり、魚料理・肉料理・フロマージュ・デザート・そしてコーヒー。
 のんびりとした気分を味わいながら食事を済ましてゆく。
 最後デザートとコーヒーが出てきたところでルヴァは
「あの。オスカー。結局聞かないまま食事が終わってしまったのですが、今日は何の日なんですか?」
「もう一軒付き合ってほしいところがある。そこで・・・」
 とオスカーは言葉を濁した。
 2人が店を出るとオスカーは一度ビルからでて、今度は前に建つホテルのラウンジにルヴァを連れて行った。
 そこではどこの席からも死角になる窓際に通された。
「何を飲む?」
 と尋ねるオスカーに
「カルアミルクを」
 と頼み「貴方はまだまだ飲めるんですよね」とつぶやいた。
 それぞれ飲み物が届くと軽く乾杯をし、一緒にカルアミルクを頼んだオスカーは一口飲むと手に持ったままのグラスを見つめ、口を開いた。
「さっきからルヴァが聞いていることだけどな。今日はここ下界ではクリスマスと言って、元はキリストって人の誕生日を祝う日だったんだけどな。最近は主にカップルのイベントになっている」
 オスカーはそこで一度言葉を切るとちらっとルヴァのほうを向いた。
 一瞬視線がぶつかりオスカーはまた下を向くと
「で、ルヴァは気づいていないと思うのだが、俺は――ルヴァのことが好きなんだ。で、一緒に下界の風習に習って過ごしたいと・・・」
 オスカーはそう言うとルヴァの反応を待ってみた。ルヴァは両手で持っていたグラスをテーブルに置くと、オスカーの手を自分の手で覆った。
「気づいていました」
 と言った。オスカーが視線をあげるとルヴァの視線と交わり信じられないと言う目で見返した。
「私はね、気づいていたと言っても、確信をもっていたわけではないんです。なんとなく貴方が私に好意を持ってくれているんじゃないか。でもそれは私がそう願っているから感じるだけなのか――と。ただの独りよがりかもしれないしと思い。貴方には何も言わなかったんです。いえ、言えなかったんです。怖かったんですよ。もし私の気持ちを伝えたところで今までのように接してくれなくなったらどうしようかと・・・」
 ルヴァがそこまで言うとオスカーは
「そんなことあるか」
 と言い、覆い被さっているルヴァの手を解き掴むと立ち上がった。
 ルヴァの身体は必然的にオスカーに引っ張られ、立ち上がる事になった。
「あっ」
 こけそうになるルヴァの身体をオスカーは掴んでいる手を離し、身体全体を支えた。
 見詰め合う二人はどちらともなく顔を寄せ、唇を重ねた。


 窓の外ではあまり見ることの出来ない雪が降り出した・・・。


FIN



      世の中はクリスマスです。そして私にとっては毎年のように、修羅場を迎える時期です。
      別に冬コミに〜というわけではありません。
      このHP用の小説を書くために修羅場を迎えます。
      修羅場を迎えて書く小説ははっきり言って推敲がまともに出来ていません。
      読んでいて「ここおかしいぞ」という所や突っ込み所がありましたら、
      どんどんメールやBBSにてお知らせください。
      また感想なども頂けると泣いて喜びます。
      どうぞよろしくおねがいしますm(_ _)m



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