BirthDay

「あとはこのイチゴを乗せるだけっと」
「アンジェリーク。いるのー?」
そう言いながらリビングに入ってきたロザリアは目の前に広がる光景に唖然とした。
流しに山の用に積まれているボール類。生クリームが飛び回っているテーブル。
そしてそのテーブルの上にはケーキと思われる物が3つ。
そのケーキの前に全身粉まみれになっているアンジェリーク。
ロザリアは一通り部屋を見渡し、一つ溜息をついた。
「あんたって、ほんとうに不器用ね」
「へへっ。でもね、やっとできたの」
アンジェリークはうれしそうに今できあがったケーキをロザリアに見せた。
「で、こっちの2つは何?」
「1つはお砂糖とお塩を間違えて入れたの。もう1つはスポンジを焼きすぎたの」
そう説明するとアンジェリークは完成品を箱に入れた。
「これでよしっと。ロザリア今からルヴァ様のところに持っていくんだけどあなたも行かない?」
「遠慮しとくわ…。おじゃま虫にはなりたくありませんから」
台詞の後半は心の中でだけ言い、さりげなく時計を見た。
「もうこんな時間。これから用事があるのを忘れていたわ。アンジェリーク。頑張ってルヴァ様のところに持って行きなさい」
そう言い、アンジェリークの部屋を後にした。

7月12日。土の曜日。
今日は聖殿に行くことが出来ないため、アンジェリークは前もってルヴァに手紙を出しておいた。
アンジェリークはケーキの入った箱を大事そうにかかえ、公園に向かった。
公園には商人の姿があるだけだった。
アンジェリークは商人の横を通り、公園左奥にあるカフェテラスへ行った。
カフェにはいつからいたのかイスに座り本を読むルヴァの姿があった。
「ルヴァ様。おまたせしました」
アンジェリークが声をかけると開いていたページに栞を挟み顔を上げた。
「こんにちは〜アンジェリーク。今日はお誘いありがとうございます」
にこりと微笑むルヴァにアンジェリークはケーキの箱を差し出すと、
「ケーキを作ってきたのです。ルヴァ様のお口に合うかわかりませんが…」
と言った。
それを聞いたルヴァは近くを歩くウェイトレスを呼び止め、カットナイフやお皿を貸してもらえるように頼んだ。
暫くするとウェイトレスがナイフとお皿・フォーク。そして紅茶を持ってやって来た。
「あのー。紅茶は頼んでないのですが」
そう言うルヴァにウェイトレスは「サービスです」と言い戻っていった。
ウェイトレスの姿が見えなくなると、ルヴァはおもむろに箱の口を開けた。
アンジェリークが大切に抱えて持ってきただけあり、デコレーションが崩れることなくケーキは箱から取り出された。
ケーキの上には"Happy Birthday ルヴァさま"とチョコペンで書かれ、周りにはイチゴが散らばっていた。
ルヴァは暫くケーキに見入り、顔をアンジェリークに移すと、
「食べてしまうのがもったいないですね」
と微笑んだ。その笑顔を見、アンジェリークは頬を染め、下を向いた。
「でも、折角なのでいただきましょうか。どう切りましょうかね〜」
ルヴァは暫くナイフを片手にあーでもない、こーでもないと考えていた。
「う〜ん。どう切っても同じですね」
結局答えが出ないままルヴァはケーキをカットし、お皿にのせた。
「はい、アンジェリーク」
そう言い、アンジェリークの前にお皿を置くと、次は自分の前に置いた。
「いただきますね」
ルヴァはそう言うとフォークでケーキを口に運んだ。
ルヴァの感想が気になるアンジェリークはじーっと、ルヴァの顔を見続ける。
するとじっくり味わうルヴァの顔がみるみるうちに微笑みにかわった。
「とってもおいしいです。大きな声では言えませんが、ここのカフェのケーキよりもおいしいですよ」
そう言うルヴァの台詞にアンジェリークは安堵し、自分の口にもケーキを運んだ。
何度か咀嚼し、アンジェリークの動きが止まった。
「アンジェリーク。どうかしたのですか?」
そんなルヴァの声に正気に戻り、「いえ」と首を振った。
自分でもびっくりするぐらいおいしくできあがったケーキにアンジェリークはうれしくなり、ルヴァと楽しくTea Timeを過ごした。
日が西に傾いてきた頃。
「もうこんな時間なんですね。そろそろ帰りましょうか。部屋までお送りしますよ」
ルヴァはそう言い立ち上がると、アンジェリークの部屋の前まで送っていった。
「こんな素敵な誕生日は生まれて初めてです。ありがとうアンジェリーク」
ルヴァは別れ際にそう言うと、アンジェリークの額にそっとキスをした。
「・・・それではまた」
ルヴァは逃げるように自分の私邸に向かった。
アンジェリークはそんなルヴァの後姿が見えなくなるまで、見つめ続けた。

FIN


 ルヴァ様お誕生日小説です。今回はどうしようかな〜と思いながら、
 職場の子に誰とがいい?と聞いたところリモージュちゃんだったので、
 彼女にしてみました。
 なんでこんなに不器用な彼女が出来てしまったのでしょうか・・・。






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