Lost Dog




日の曜日。ルヴァとクラヴィスが特別な関係になって早三ヶ月。
週末になればどちらかの私邸で同じときを過ごすようになった。
昨日まで降っていた雨は上がったものの、すっきりしない空。
クラヴィスは徒歩でルヴァの私邸へ向かった。
ルヴァの私邸が見えてきたころクラヴィスはどこからともなく聞こえてくる犬の鳴き声に気がついた。
早くルヴァに会いたいと思うのだが、どうしても犬の鳴き声が気になる。
クラヴィスは鳴き声のするほうへ足を向けた。
茂みの奥に少し汚れた子犬がいた。
犬はクラヴィスの姿を見、一瞬警戒するものの、危害を加える様子がないと見て取ると"クゥ〜ン"と鳴き、クラヴィスの足元にやってきた。
クラヴィスはどうしたものか一瞬悩み、しゃがむと犬を抱き上げルヴァの私邸へと向かった。

その頃。約束をしているわけではないが、普段なら来てもよさそうな時間になっても訪れないクラヴィスに何かあったのではないかとルヴァはそわそわしていた。
ほどなくして子犬を連れたクラヴィスはルヴァの私邸に着いた。
玄関まで迎えに行ったルヴァはクラヴィスに何もなかったことにほっとした。
「どうかしたか?」
ルヴァのほっとした顔を見、クラヴィスは尋ねた。
「いえ。ただいつもなら来てもよさそうな時間になっても貴方が来ないので、貴方の身に何かあったのではないかと心配していたんですよ」
「そうか、心配をかけたようだな」
クラヴィスがそう言うとどこからか「クウ〜ン」と聞こえてきた。
「おや?何の泣き声でしょう」
クラヴィスは懐から先ほど拾った犬を出し、
「こいつだ。こいつを拾っていたので来るのが少し遅くなってしまった」
と答えた。
「この犬は?」
不思議そうな顔をするルヴァに
「さきほど、そこの茂みに迷い込んでてな、どこかで飼われていたのか野良なのかわからないが、腹を空かしているようなので連れてきた。――まずかったか?」
せっかくの日の曜日なのに……と思いながらも
犬に嫉妬してあきれられるのもいやなのでルヴァは首を横に振るだけにした。
地面に降ろされた子犬はルヴァの足元へ行くと甘えるように頭をすりつけた。
ルヴァはしゃがみこむと犬の頭をなで
「今ミルクを持ってきてあげますから、あなたはクラヴィスにあらってもらってください」
と犬に語りかけ「お願いしますね」と立ち上がりクラヴィスに頼んだ。
クラヴィスは「わかった」と答えると犬を抱き上げシャワールームへ向かった。
ミルクを少し温め、深めのお皿に入れ、クラヴィスと犬を待つものの、戻ってくる気配がない。
ルヴァはタオルがないことに気付き、タオルを持ってシャワールームに行くと
「お前はじっとできないのか」
というクラヴィスの声が聞こえてきた。ルヴァは首をかしげると「開けますよ」と言ってドアに手をかけた。
中からの「ちょっと待て」と言う声がしたのだが、ルヴァがドアを開ける方が早かった。
開け放たれたドアの隙間から水にぬれ、泡まみれになっている犬が飛び出した。
ルヴァは大急ぎで犬を追いかけた。
暫くの間犬とルヴァの追いかけっこが行われ、ルヴァがもうダメだとバテ出したころ、ようやく犬は逃げるのをやめルヴァの足元へやってきた。
ルヴァは服がぬれることも気にせず、犬を抱き上げるとクラヴィスに預けた。
クラヴィスはルヴァから犬を受け取るとシャワールームのドアをしっかりと閉め、犬にシャワーを浴びせた。
ようやく犬を洗い終え、クラヴィスはルヴァの待つ部屋へと向かった。
足元に犬を携えたクラヴィスがルヴァのところへ行くと
「この子犬、白い犬だったんですね」
ルヴァは犬を見て感想をのべた。
「ああ」
クラヴィスは同感だとばかりにうなずいた。
犬は二人の会話を無視し、ルヴァが用意していたミルクを飲みだした。
結局この日は犬がいたため、二人と一匹はのんびりと一日を過ごしただけだった。
共に、少しもの足りなさを感じながらも明日からまた執務が始まるということでクラヴィスは自分の館へと帰ることになった。
「さてこの犬をどうしましょうか」
ルヴァの膝の上でじっとしている犬を見てルヴァは言った。
「そうだな。そこで落ち着いているしルヴァが面倒を見るということでいいのではないか」
クラヴィスがそう言い、立ち上がると犬はルヴァの膝から降り、クラヴィスの足元へじゃれに行った。
「どうやら貴方のほうが良いみたいですね」
ルヴァが言うと
「しょうがないやつだ」
と言い、クラヴィスは犬を抱えて私邸に帰っていった。
クラヴィスの帰った後の私邸でルヴァは犬に嫉妬している自分を感じ苦笑いをした。

どんな日の曜日を過ごそうが月の曜日はやってくる。
また目まぐるしい日々がやって来た。いろいろと問題が起こり、処理をしていく。
そしてまた巡ってきた日の曜日。
今回はルヴァがクラヴィスの私邸へ行くことにした。
犬はきっといるだろうが、クラヴィスも同じように寂しい想いをしていると信じ、ルヴァはクラヴィスの私邸のドアをたたいた。
ほどなくして出てきたクラヴィスの足元にはやはり犬がじゃれついている。
ルヴァは少し顔を顰めるとすぐに戻し、
「こんにちはクラヴィス」
と挨拶をした。
進められるままリビングに通されたルヴァはテーブルの上に並ぶ食事にびっくりした。
驚きのあまり足を止めるルヴァにクラヴィスは
「前回はこいつのおかげで寂しい思いをさせたみたいだからな」
と言った。二人はひと時犬のことを忘れてのんびり食事を始めた。
会話と言えばルヴァが仕事の話を振り、クラヴィスに今は忘れろと言われ、たわいのない話をしていると、さきほどまで足元でじゃれていた犬が静かになった。
ルヴァがテーブルの下を覗くとおなかも膨れ、遊び疲れたのか犬は気持ちよさそうに寝入っていた。
「どうも寝てしまったようですね」
ルヴァはテーブルの下から顔を上げ言った。
「そのようだな」
クラヴィスも犬が寝ているのを確認するとそう答え、おもむろに立ち上がるとルヴァを後ろから抱きしめた。
「ダメですよ。せっかく眠った犬が起きてしまいます」
ルヴァはそう言いながらもクラヴィスの腕を抱き、幸せそうに微笑んだ。


FIN



     
かな〜りおまたせしていたキリリクです。
     今回はクラヴィス様で迷い犬。というリクだったのですが、
     犬がいたためか今まで以上にラブ度が低い気がします。
     リクをくださったねずねずさん。
     こんな感じになりましたが、よかったでしょうか(ドキドキ)






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