Gemstone




一行が辿り着いた街は丁度祭りの最中だった。
五穀豊穣を祈願するこの地域一番の祭り。
街の中は活気付いていて桃源郷の異変の欠片すら感じられない。
そんな街に自分達が逗留するのは気が引けたが、万年欠食児童を抱えた一行にはこの先の食料もままならない状態でやむを得ず逗留することを決めた。

祭りの見物客の為にどこの宿屋も満室の中、そこは八戒の最強の笑顔で一行は無事本日の寝床を得る事ができた。
部屋に入る早々悟空は外の祭りが気になり、悟浄は祭りに参加している女の子が気になって早々に部屋を後にしていた。
八戒は荷物の整理をしながら三蔵に声を掛ける。

「僕買出しに行きますけど三蔵もお祭り見物がてら一緒に行きませんか?」
「人ごみは鬱陶しい」
「わかりました、じゃ行って来ますね」

短く返された予測していた通りの答えに少し残念そうな笑みを浮かべながら部屋を後にした。



さすがにこの地域一番の祭りと言うだけあって見物客の人数も、出店の数も半端ではない。
それとは逆に普通の店は軒並み休みを取っている。
こんな時に開いているのは宿屋か食堂だけのようだ。
そんな中で必要最低限の買物を済ませ、賑やかに立並ぶ出店を眺めながら宿への帰途を急いだ。

帰途を急ぐ八戒に一軒の店が目にとまった。
「神秘の力を宿す石」
そう書かれた店には大小様々な石が並べられている。
水晶、ムーンストーン、ラピスラズリ…
その中の一つの石に目が釘付けになる。
神秘的な光りを放つ紫の宝玉。
それはまるで彼の思い人の瞳のような。

「お前さん、目が高いのう。その石はアメシスト、真実の愛を育む石じゃ」
「真実の愛を育む…石?」
「そうじゃ、石はな、それぞれいろんな力をその内に秘めているんじゃ。そのアメシストは真実の愛を育む力、お前さんの瞳と同じアベンチュリンは安らぎを与える力を持つといわれておる」

声を掛ける老人の不思議と説得力のある言葉に只聞き入るばかりであった。

「お前さんその石が気に入ったか?ならば持って行くがいい」
「あ…えぇ…でも僕そんなにお金持ってませんし…」
「金か、金ならいい」
「え?でもそう言うわけには…」
「そうじゃな、それならお前さんの持っているその缶詰をいただこう。その石とて気に入ってもらった者に持ってもらってこそより大きな力を発揮するじゃろうて」

そう笑うと八戒の手にアメシストの石を手渡した、おまけだと言ってアベンチュリンの石と共に。
八戒は手に持っていた二個の缶詰を手渡した、その石にどれだけの価値があるのかは判らないが老人がそれ以上は受け取らなかった為だ。
二つの貴石を大事そうに懐にしまうとニコリと笑う老人に深々と頭を下げその場を立ち去った。



宿に戻ると大切な人の不機嫌な顔が迎えてくれた。
他の二人はまだ戻ってはいないらしい。
手早く荷物を整理し、珈琲を入れると三蔵の隣に腰を掛け、懐から二つの貴石を取り出し先程出会った不思議な老人の話を始めた。

「この石、真実の愛を育む石だそうです。この石を見たときどうしても手に入れたいと思ってしまいました、何故だかわかりますか?」
「さぁな」
「あなたの瞳と同じ色をしていたから…この石を持っていればいつもあなたを感じていられるとでも思ったんでしょうか…」
「馬鹿じゃねぇのか。毎日嫌でも顔つき合わせてるじゃねぇか」
「僕ってつくづく欲深いんでしょうね、始めはあなたの隣に居るだけで良かったのに…今ではそれだけでは我慢できなくなっている…もっとあなたを感じていたい…僕の大切な貴石…」

そう言うと大切な貴石を包み込むように優しく抱き寄せ口付る。
「お前も持ってるだろうが、碧の宝玉」
と八戒の左瞼に優しく口付けを返した。
唐突な行為に八戒は呆然としている。

「ところで、その碧の石、それにはどんな力が宿っているんだ?」
「あれはアベンチュリンと言って安らぎを与える石だそうですよ」
「そうか…じゃぁあの石、俺にくれ」
「え?」
「お前等と一緒じゃ気が休まらんからな…それに…」
「それに?」
「あの石…お前の瞳みたいだ…」
「あなたって人は…いつも突然とんでもない事をしてその後は何もなかったような顔をする。本当にズルイ人ですね」

その言葉にニヤリと返す。



紫と碧の宝玉。
二つの石の神秘なる力が優しく部屋の中に広がる。
そんな穏やかな昼下がり。




-Fin-





SOLOさんの所で555番を踏んだ時のキリリク小説です。
リク通りの8×3あまあまで、暫く顔がにやけてしまいました。
SOLOさんありがとうございました。




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